これまで肝臓がんに有効な抗がん剤はないとされてきました。肝臓がんに対する全身化学療法の効果は低く,いまだ標準的な治療法も確立していないのが現状でした。
しかし,分子標的治療薬,ネクサバール(一般名ソラフェニブ)の切除不能肝細胞がんへの適応拡大が2009年に承認されました。
この承認により,世界で初めて肝細胞がんに対して生存期間の延長を示した全身治療薬の使用が日本でも可能となりました。
ネクサバールはがん細胞の増殖と血管新生に関与する酵素を阻害することで,効果を発揮します。
欧米の臨床試験では,ネクサバール投与(400ミリグラムを1日2回内服)群(299例)とプラセボ投与群(303例)が比較された結果,全生存期間がプラセボ群7.9カ月に対してネクサバール群は10.7カ月と,44パーセントも延長できたと報告されています。
また,無増悪期間もプラセボ群2.8カ月に対してネクサバール群5.5カ月と有意差が認められ,副作用の頻度もほぼ同等と良好でした。
日本でも臨床試験は行われており,症例は27例と少ないものの,日本人に投与した場合の安全性,有効性は海外試験とほぼ同等という結果でした。
副作用は現在のところ,ほかの分子標的薬と比べて副作用に大きな違いはみられていません。海外の臨床試験での重篤な副作用は,下痢が11パーセント,手足皮膚反応8パーセント,疲労感10パーセント,出血6パーセントででした。
日本での試験では,手足皮膚反応や皮疹,肝機能の低下,膵臓の酵素であるリパーゼ値の上昇などの副作用はありましたが,重篤なものは1例だけであったと報告されています。
また,進行肝細胞がんに対するソラフェニブ療法後の治療として,肝動注化学療法は肝予備能が低下した症例に対しても安全に施行可能で,有効であると報告されています。